タバコスズメガ(Manduca sexta)
タバコスズメガはスズメガ科の蛾です。 タバコスズメガの幼虫は、タバコやトマトといったナス科の植物の葉を食べます。
タバコには、強い神経毒性のあるニコチン毒が含まれていますが、タバコスズメガの幼虫は分解・排泄するメカニズムを持っています。
この強力な生体防衛機構を持つタバコスズメガに寄生する蜂がコマユバチです。 コマユバチのメスはタバコスズメガなどの幼虫の体内に多数の卵を産み付けます。 卵を産み付けられたタバコスズメガの幼虫は、直ちに生体防衛機構で卵を排除しようとします。 メスのコマユバチは卵巣の細胞内でDNAウイルスの一種である、ポリドナウイルスを増殖させています。 その卵はこのウイルスを持ったまま、イモムシの体内に産卵され、イモムシの生体防衛機構を崩して破壊します。 さらにこのウイルスにはイモムシを変態させず幼虫のままにしておくことができます。
通常のイモムシは、体内より分泌されるエルテラーゼ酵素によって、幼虫のままでいることを指令する幼若ホルモンを分解して成長し、蛹になります。 しかしコマユバチが寄生すると幼若ホルモンの分解酵素を抑えるのです。
コマユバチはこのポリドナウイルスのゲノムを自分のゲノムの中に組み込んでおり、その染色体中にウイルスのDNAを持っています。 かくして、ウイルスの遺伝子はコマユバチの染色体で複製され、卵を通じて次の世代へ、コマユバチの子孫たちに伝えられていくのです。